「エメリー、エメリー!これはここで大丈夫ですか?」 

「うん!そこでいいよ!ありがとう!」 

「ええ、どういたしまして」 

ケビンはにこやかに微笑んで、手に持ったブリキの小さな箱を整頓された棚の中に置いた。 

「この棚も一杯になってきましたね。・・・いくつか捨ててもいいのでは?」 

「ちょっと!これは全部大事な宝物なんだ!捨てられないよ!」 

「それは片付けが出来ない人の常套句ですよ !ほら、勇気を出して捨ててみましょう!まずはこれとか──」ケビンは用途の不明な筒状のペンのようなものを、ひょいと棚から取り出した。 

「わー!わー!やめろやめろ!!」 

「・・・なんて、冗談です」 

「もう!からかうの、やめてくれよ!」 

「ふふ。失礼しました」 

「──おや、何やら楽しそうですね」トーマスがスタスタと歩み寄ってくる。白いワイシャツは肘上まで捲られ、額にはわずかに汗が滲んでいる。何やら一仕事終えたところのようだった。 

「トーマスさん、お疲れ様です」 

「トーマス !トーマス !なあ、聞いてくれよ!ケビンがな!ひどいんだ!」 

「とんでもない!私はただ、エメリーのためを思ってですね── !」 

「ほっほっほ。お二人ともそうお慌てにならずに。ゆっくりと聞かせてくださいませ──」 

工房には三人の賑やかな声が響いていた。 

それは傍から見れば、親子のように、それこそエメリーがずっと求めていたような、そんな関係に見紛うほどだった。それほどに和やかで、平和な空間だった。 

「なぁ!ひどいだろ!ケビンのやつ!」 

「そうでしょうか?私からすれば、エメリーの方こそおかしいように思いますが!」 

「ほっほっほ。お二人ともそう熱くならずに。一度、休憩にいたしましょう」 

「きゅうけい!休憩ってことは、お菓子があるってことだよね!」 

「さて?それはどうでしょう」 

「えー!何だよそれぇ」 

「当然です!エメリーはお菓子を控えるべきです!」 

「何だよぉ!ケビン!」 

「ほっほっほ。・・・ところで坊ちゃん。一つお聞きしても?」 

「どうしたんだい?トーマス」 

「ケビン様のお名前についてですが──。ケビンという名前は男性につけるようなイメージがあるのですが、なぜ女性型の機体であるケビン様をそう名付けられたのですか?」 

「え!ケビン、女の子だったの!」 

「私は自分自身に対しての性自認をもたないので、どちらで呼ばれようが構いませんが・・・。一応、型番としては女性をモデルとして製造されています」 

「へぇ、そうだったんだ。じゃあ、今から変えようか?例えば、そうだな・・・、デブライネとか?」 

「「「・・・」」」 

沈黙。 

「さ、流石のセンスです、坊ちゃま。ですが──」 

「もう私もケビンで馴れ親しんでしまっていますし・・・、今のままでいいのではないでしょうか?」 

「ふーん、いい名前だと思うんだけどな。ま、それならいっか。引き続きよろしく!ケビン !」 

「・・・ええ!エメリー」 

それから三人は談笑しながら、長い廊下をゆっくり進んでいった。 

──ケビンが心を持つようになってからの数ヶ月、エメリーはよく笑うようになった。 

決して今までが無愛想で塞ぎ込んでいたわけではない。 

しかし、明らかにケビンの一件の後のエメリーは前にも増してよく笑い、よくはしゃいでいた。父や母がいなくとも、自分は充分幸せだと、それを証明するかのように振舞っていた。 

少々意地の悪い書き方をしたが、後ろ向きな感情が彼にあるというわけではない。少年は本当に心から喜び、楽しんでいたし、過去の空白を埋めんとする勢いで日々を純粋に謳歌していたことは紛れもない真実だ。 

「ケビン!僕のケビン!これからもずっと一緒にいておくれよ」 

「ええ、主人(マスター)。願わくばこのままずっと、変わらずに」 

──だからこそ、この後に起きた事は、彼が不都合な事実から作為的に目を背けていた故に生じた事故というわけではない。結果だけを見れば、そう捉えることは可能だが、過程はそうではない。もしも少年の過失を咎めるとするのならば、それこそ彼の決断の瞬間まで遡らなくてはいけない。それは無意味な行為だ。 

彼はただ、自分が思うがままに生きていたかっただけで、たまたまそれが誰かを傷つけるものだった、というだけの話だ。