「で、出た・・・!発射された !!」
街に向かって打ち込まれるロケットミサイルを俺は双眼鏡越しに捕捉した。警備員さんと連動しているため、視界に入れば自動で照準が定まる様になっている。
「た、頼んだ !!」
「ええ、任せて──」
時間はない。上空で爆発させるにしても近すぎては意味がない。
犠牲者を出さないためには一刻の猶予もない。
だが。
「え、なんだ、あれ」
「!?」
照準は定まらなかった。
正確に言うならば、二つの目標を捕捉したのだ。
街に撃ち降ろされるものとは別に、遥か上空へと高く打ち上げられたもう一つの弾頭。
「──くっ!」
二発目の射出間隔から見て、どちらかはブラフ、つまり空の弾であることは明白だ。一度に射出出来る絶対量は限られているため、片方が空でなければ、あの撃ち方は出来るはずがない。でも、どっちが──。
「や、やばい !もう時間が・・・!!」
「・・・」
──警備員は素早い動きで銃身を上へと起こす。
「な、何を」
遥か上、雄大な曲線を描いて堕ち行く二発目の黒星に狙いを定める。
「一つ目は捨てます。あれは恐らくブラフです」
「はぁ!?そ、そんなこと・・・、もしあれが実弾だったら」
「その時は──、二人で謝りましょう」
「な、なんだって?」
慌てるクロを横目に、警備員は全ての意識を一点に集中させる。
彼女には確信があった。
クロの持たされた箱、その中に入っていたのは一本の円筒。その中に入っていたのは狙撃用の銃弾だった。それも単なる弾薬ではない。炸裂した瞬間に件の毒を無効化する薬液が放出される、まさに文字通りの弾“薬”であった。もし、自分の手に渡っていなかったらと思うとゾッとする。たまたま、自分は気が付けたからよかったものの。
「──全く、言葉足らずが多すぎです」
ワンの狙い、それは上空で弾頭を炸裂させ、搭載した毒を地表にばら撒くこと。
高軌道の射出角がそれを証明していた。
「嗚呼、ホントに。何てまどろっこしい人たち !!」
──一発の弾丸が空を裂き、今まさに落ちんとする巨大な脅威を穿ち貫いた。
感情は色彩だ。
喜怒哀楽は四季のように、巡り、回り、廻り、そして、何処にでも色付いている。僕たちは生きていて、生きているからこそ、その存在は美しく、気高く、汚れさえもまた輝いている。だから僕は人が好きだ。人の描く心が好きだ。
「わぁ、綺麗」シロは空を見上げながら思わず呟く。
──空中で炸裂した飛翔体は、烈々と輝くと澄んだ水のような液体を雨のように地表にばら撒いた。それは、雲の切れ間から覗いた斜陽を乱反射して、巨大な七色の虹の壁をスラムの空に映し出した。
「・・・ぼくは」
「え?」
「ぼくは、いつもみてきたんだ。こんなふうに、いろんないろがまざって、ひかって、きれいにできているのを、ね。だから──とってもうれしいんだよ、ぼくは」
ワタルは空を見ながら、誰に言うとでもなく言葉を紡いだ。
シロは黙ってそれを聴いていた。
ただし、その手にはしっかりとカメラが握られていた。
彼女の手の中を通じて、世界は一分間だけ少年少女と接続した。
空気のキャンバスには彩りが奔走し弾けている。ワタルは無邪気に微笑んでいる。
「はじめて、みんなとおなじものみれた。ずっと、いいたかったことがいえるんだ」
少年は振り返り、カメラと、世界と向き合う。
そして、いじらしく語り掛けるのだ。
「──僕たちの世界は、こんなにも輝いているんだよ」